卵子と精子のエネルギー源「ミトコンドリア」と”サビつき”の関係

2025.04.02BLOG

卵子と精子のエネルギー源「ミトコンドリア」と”サビつき”の関係

当院では、最新の治療技術とともに、妊娠に向けた「体づくり」のサポートにも力を入れています
今回は、特に卵子や精子の質に深く関わると考えられている「ミトコンドリア」と
その働きを低下させる可能性のある「活性酸素(酸化ストレス)」について、
少し詳しくお話ししたいと思います

◆ 私たちの体のエネルギー工場「ミトコンドリア」

私たちの体は約37兆個もの細胞でできていますが、
そのほとんどの細胞の中に「ミトコンドリア」という小さな器官が存在します
ミトコンドリアは、私たちが食事から摂った栄養素と、呼吸で取り込んだ酸素を使って、
生命活動に必要なエネルギー(ATP)を作り出す、いわば「細胞内のエネルギー工場」です

特に、卵子と精子にとって、ミトコンドリアは極めて重要な役割を担っています
卵子は、人間の体の中で最も大きな細胞の一つであり、受精後、分割を繰り返して胚となり、
子宮内膜に着床するまで、非常に多くのエネルギーを必要とします
そのエネルギーの大部分は、卵子内に豊富に存在するミトコンドリアによって供給されます
質の良い卵子には、機能的なミトコンドリアが十分な量存在していることが重要です
また、精子が卵子に向かって泳いでいく運動エネルギーや、卵子と受精する際の反応にも
ミトコンドリアが作るエネルギーが不可欠です

◆ 忍び寄る体の"サビつき"「活性酸素」とは?

ミトコンドリアがエネルギーを作り出す過程では、同時に「活性酸素」という副産物が発生します
活性酸素は、少量であれば細菌やウイルスを排除するなど、体にとって有益な働きもします
しかし、加齢、紫外線、ストレス、喫煙、偏った食生活、激しい運動、環境汚染など、
様々な要因によって活性酸素が過剰に発生すると、
体の抗酸化防御システムでは処理しきれなくなり、細胞や組織を傷つけてしまいます
この状態を「酸化ストレス」、いわば体の"サビつき"と呼びます

◆ 活性酸素がミトコンドリアの機能低下を招くメカニズム

実は、エネルギー産生の場であるミトコンドリア自身が、
この活性酸素によるダメージ(酸化ストレス)を最も受けやすい場所の一つなのです

ミトコンドリアは、細胞核のDNAとは別に、独自のDNA(ミトコンドリアDNA:mtDNA)を持っています
このmtDNAは、ミトコンドリアが正しく機能するための重要な設計図の役割を果たしています
しかし、mtDNAは核のDNAと比べて、損傷からの修復機能が弱いという特徴があります
(この件については、また後日に)

エネルギー産生の過程で発生した活性酸素や、外部からの要因による過剰な活性酸素が
ミトコンドリアを攻撃すると、このmtDNAが損傷を受けやすくなります
mtDNAが傷つくと、ミトコンドリアの設計図にエラーが生じ、エネルギーを効率よく作れなくなったり
さらに多くの活性酸素を発生させてしまう、といった悪循環に陥ることがあります

ミトコンドリアの機能低下は、卵子や精子に以下のような影響を与える可能性が指摘されています

卵子: エネルギー不足により、成熟がうまくいかない、受精能力が低下する、
受精後の胚発生が途中で停止してしまう、染色体異常のリスクが高まる、
といった問題につながる可能性があります

精子: エネルギー不足により、運動率が低下する、DNAが損傷しやすくなる、
受精能力が低下する、といった影響が考えられます

このように、酸化ストレスによるミトコンドリア機能の低下は、卵子や精子の質を低下させ、
妊娠の成立や継続を妨げる一因となる可能性があるのです

◆ あなたの酸化ストレス状態を知る「酸化LDLコレステロール検査」

では、ご自身の体の酸化ストレス状態はどのようになっているのでしょうか?
それを知るための一つの指標として、
当院では「酸化LDLコレステロール検査(血液検査)」をご案内しています

LDLコレステロール(いわゆる悪玉コレステロール)は、
活性酸素によって酸化されやすい性質を持っています
体内の酸化ストレスが高い状態にあると、血液中のLDLコレステロールが酸化され、
「酸化LDLコレステロール」が増加します
この酸化LDLコレステロール値を測定することで、
間接的に全身の酸化ストレスの度合いを推測することができます

この検査は自費診療となります
すべての方に必須ではありませんが、
★ご自身の体の"サビつき"具合を知り、対策を考えたい方
★ご年齢が高めの方(一般的に加齢とともに酸化ストレスは亢進傾向にあります)
★食生活の乱れ、喫煙、強いストレスなど、酸化ストレスの原因に心当たりのある方
などには、現状把握と体質改善への意識付けのために、有用な検査の一つと考えています

◆ 検査結果を活かす!管理栄養士による個別サポート

検査で現状を知るだけでなく、その結果を基に具体的な対策をとることが大切です
当院には、栄養指導経験が豊富な管理栄養士が在籍しており、
皆さまの体づくりをサポートいたします

検査結果や普段の食生活、ライフスタイルなどを詳しくお伺いした上で、
・抗酸化作用のある栄養素(ビタミンC、ビタミンE、コエンザイムQ10、亜鉛、セレン、エルゴチオネインなど)を
 多く含む食品、バランスの取れた食事の摂り方
・腸内環境を整える食事
その他、生活習慣(睡眠、運動、ストレスケア)に関するアドバイス
など、お一人おひとりに合わせた、実践しやすく継続可能な方法をご提案します
酸化ストレスに負けない体づくりを、栄養面から強力にバックアップいたします。

◆ 未来のために、できることから始めませんか?

酸化ストレスやミトコンドリアの状態は、目に見えにくいものです
だからこそ、客観的な指標を知り、専門家のアドバイスを受けながら生活習慣を見直すことは
より良い妊娠・出産を目指す上で大きな意味を持つと考えています

酸化LDLコレステロール検査にご興味のある方、ご自身の体質改善について相談したい方は、
どうぞお気軽に医師またはスタッフにお声がけください
管理栄養士による栄養カウンセリングも随時受け付けております

皆さまが安心して、前向きに不妊治療に取り組めるよう、チーム一丸となってサポートしてまいります

院長